ことばが出てこない…
「組立説明書がわかりにくいんだよ、今すぐ組み立てに来い!」という電話がコールセンターに入った。オペレーターのAさんは、あぁ、またか・・・と思いながら、お客様情報を確認し、いつものように対応を進めて行った。
F家具販売会社は、机、椅子、棚などのオフィス家具、家庭での実用家具を通信販売で取り扱っている。梱包をコンパクトにするため、組み立てはお客様で行っていただくスタイル。配送料や組み立て費用が削減されるので、その分商品価格が抑えられるという仕組みだ。F社は、商品展開を全てホームページ上の画像で行っているため、「届いてみたら思っていたのと違った」「部材が足りない」「組立説明書がわかりづらい」等、さまざまなクレームが日々舞い込んでくる。そんなクレームが続く中、とうとうオペレーターAさんが徐々に体調に異常をきたし、ついにある日、受話器を取っているにもかかわらず、一言も言葉がでてこなくなってしまうという事態に陥ってしまったのだ。
いつの間にかクレーム対応専任に?
クレーム対応研修を1000回以上実施してきた私の基には、様々なクレームの事例が集まります。F家具販売会社もそのひとつです。あまり大きな会社ではなく、コールセンターの規模も10数人で切り盛りしている会社でした。そもそもコールセンターの位置づけはあくまでも注文受付とされていて、クレーム対応は副次的な仕事でしかなかったと言います。こうした会社の雰囲気があって、クレーム処理を担当する社員は、いつしか数人に集中していきました。その一人がAさんで、基本的に受け身で、頼まれると嫌と言えない性格だったのです。そうしたAさんの性格もあり、いつの間にか、クレーム対応はAさんに集中することが多くなっていきました。来る日も来る日もクレーム対応に追われるAさんは、業務中の電話のほとんどがクレーム対応という日が続き、精神的に追い込まれていきました。
上司のSVの反応は いくら人の良いAさんとはいえ、この状況に悲鳴を上げ、SVに相談しに行きました。しかしながら、SVの反応はAさんの望むようなものではなかったそうです。SVはAさんの日々の頑張りをほめちぎり、あなたの頑張りが、F社を支えているんだ!これからもこの調子で頑張ってくれと言われたそうです。しかし、Aさんはそんな言葉が欲しかったわけではありません。自分の気持ちを理解して、状況を改善して欲しかったのです。がっかり、、、いや、絶望にかられたAさんは、前述のとおり、受話器を取っても声が出なくなってしまいました。
ここまでくると、コンプライアンスの問題にまで発展してしまいます。心病むまで働き続けろというブラックな企業なのかと、後ろ指をさされることもあるかも知れません。拙著「クレーマーと闘う」でも論じておりますが、「クレームは病みやすい」です。目の前のクレームをどのように対応するかを決めることはもちろんのこと、クレーム対応を担っている従業員のメンタルケアも重要な課題だということです。
会社全体の騒動に
F社の問題は何だったのでしょうか。それは、SVの認識不足が大きいと言えるでしょう。Aさんの管理者であるSVは、クレーム処理がいかにストレスのかかる仕事かを理解していませんでした。そして、Aさんに負担がかかっているという状況も理解していなかったのでしょう。Aさんが勤務続行不可になり、はじめて運用のまずさが明るみに出たのです。
この時点で、初めて経営層が状況を知ることになり、会社にとってのクレーム対応方針を決めることの重要性を認識されました。
ひとりの従業員の変調が、会社に大きな騒動を巻き起こし、意識変革に至りました。しかし、Aさんは変調をきたす必要があったのでしょうか?
経営陣がすべきこと
最初からクレームに対しての方針を決め、顧客定義、対応方針、対応方法などをルール化マニュアル化し、役割を分担することによって、クレーム対応のストレスは軽減されます。
そして、クレーム対応はストレスの溜まる仕事という認識のもとに、定期的なメンタルメンテナンスを提供するような仕組みが、会社には必要になっていくでしょう。
そうしないと、せっかく育ったオペレーターが退職することになり、これからやってくる採用難に苦労することになるでしょう。採れない状況も含めて、多大なるコストがかかることを覚悟しなければなりません。
苦情マネジメントの欠如がもたらすコスト
このような仕組みを、現場から上げていくのは難しいのではないでしょうか。F社の場合も、Aさんの悲痛な訴えは、SVの無理解によって退けられていました。経営陣が事態を把握したのは、Aさんの発症をきっかけとして、6ヶ月後だったと言います。そこから体制を立て直すには、さらに倍から3倍もの期間がかかることもよくある現状です。
あなたの会社のサービスは、クレームが多くはないですか?ハードなクレームはありませんか? 心を病まないクレーム対応の仕組みづくりは、現場ではなく、トップダウンで行うことだということを、一度考えてみてくださいね。
まとめ
クレーム対応は、過剰なストレスで病みやすいことを認識する
オペレーターを守るプロセスとメンタルヘルスケアの提供が必要
経営が早期に苦情マネジメントを確立する経済的効果は大きい
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