一本の電話
ある靴メーカーのコールセンターに、一本の電話が鳴った。
電話を取ったオペレーターが名乗るか名乗らないかのその瞬間、
「お前のところの靴で靴ずれが出来た、なんとかしろ!!」 と大声で怒鳴られた。
なんとかとは、なんとかして履けるようにしろとの要求である。
この場合、靴そのものが不良品の可能性がある。オペレーターは丁寧に謝罪し、靴を送ってもらうように手配した。しかし、検品の結果は靴自体に不良はなく、お客様と靴の相性の問題だと考えられた。その旨伝えたところ、「俺の足が悪いと言うのか!」と激怒されることになる。せっかく購入した商品が足に合わなかったという、残念な気持ちを理解しようと努め、返品の提案などもしてみたが、あくまでも「履けるようにしろ」と要求し続けるお客様だった。
そもそもこの方はお客様?
クレーム対応研修を1000回以上実施してきた私のところには、様々なクレームの事例が集まります。前述の靴メーカー様の例もそのひとつです。
さて、そもそもこの方はお客様なのでしょうか?お金を支払っているからお客様だ、という考え方もあるでしょう。しかし、商品の特性を無視して過剰・過大な要求を突きつけ続ける方を他のお客様と同列で語っても良いのでしょうか?
そもそも既製品の靴は規格が決まっており、自分の足に合うかどうかを見極めて買うものです。本当に足にフィットする靴が欲しいのであれば、それはオーダーメイドで作るしかありません。その背景を理解せず、靴ずれができたのはメーカーのせいとばかりに責め立ててくる方は、どのように対応すればよいのでしょうか。
3つの問題点
このようなクレームに対しての問題点を整理しましょう。
①どんな対応をするのか
②どのように対応するのか
➂誰が対応するのか
ということです。
①どんな対応をするのか
どんな対応をするのか、を決めなければなりません。極端に言うと、お客様の要求を受け入れるのか、お断りをするのか、です。(妥協点を探るという間をとることはありますが)どんな対応をするのかを決めるのに必要なものが「顧客定義」です。優良顧客、一般顧客、顧客ではない方と、大きくは3つくらいに分けられます。それを決めるからこそ、次のどのように対応するかが決まるのです。この顧客定義を明確に定義していない企業様はまだまだ多いなと感じております。あなたの会社は決まっていますか?
②どのように対応するのか
どのように対応するのか、を決めなければなりません。いわゆる対応方針です。例の靴メーカーは、過剰・過大要求を執拗に続ける方は顧客ではないと判断しました。よって、返品の提案をし、それでも履けるようにしろ、との要求はお断りをするという対応方針を決めたそうです。
「靴は基本、多くの方の足に合うように、膨大な統計データを基に設計されております。しかし、足の大きさ形は、サイズ違いや甲が高いなど大きな個人差がございます。足にあった靴をお選び頂けますよう、お願い致します。お客様がおっしゃる足に合った靴を用意するということは、オーダーメイドサービスでございます。費用も代わってまいりますし、当社ではオーダーメイドは承っておりませんので、ご了承いただきますようお願い申し上げます。」
と申し上げたとき、「もういいよ」とガチャ切りされ、それ以降はかかってこなかったとのことです。お断りをする、という対応方針を決め、お断りの理由を明確にし、丁寧に伝えることが出来た事例です。
③誰が対応するのか?
誰が対応をするのか、を決めなければなりません。このようなお断りの対応をするのは、第一線で電話をとるオペレーターの役割でしょうか。私は違うと思います。優良顧客、一般顧客に対して満足を感じてもらえるように、一生懸命応対することがオペレーターの役割です。お客様でない方と応対をして、交渉しお断りをすることは、オペレーターの特性上、無理があります。やはり、専門のクレーム対応責任者が望ましい。最低でも、SV・マネージャーが代わって、お断りを伝える必要があるでしょう。
経営の役割
さて、以上の①②➂を決めるのはいったい誰でしょうか?
現場のSV?マネージャーさん? 決められますか?恐らく難しいでしょう。そう、誰がお客様か、そして、誰がお客様ではないのかは、経営陣しか決められません。権限を与えていない現場のマネージャーが決められるはずがないのです。しかし決まっているところは少ないのが現状です。やっかいな方が出てきたときに判断すればよいというのが、いままでの対応方針です。でも、そのやっかいな方の応対を、判断が下るまでしているのは、現場のオペレーターです。方針の打ち出せていない間は、サンドバックになるしかありません。これでは、コールセンターの求人に人気が出ないのも当然と言えるでしょう。
今まであった、過去のクレームから、顧客とそうでない方とのボーダーラインを決め、対応方針を決めることができれば、それがルールです。コールセンターの現場はルールを守って運用していくことは得意です。そのスキルを最大限活かすためにも、顧客定義と対応方針は、経営陣が決めなければいけない、喫緊の課題と言えるでしょう。
もう一度聞きます。
あなたの会社は、誰がお客様でないのか、決めていますか?
まとめ
課題・過剰な要求をする方が本当に「お客様」なのか、考える必要がある
顧客の定義、対応方針、誰が対応するのかを決めておく必要がある
これらは経営が決めるべき事項であり、現場まかせにはしてはいけない
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